KINORIA
「KINORIA 135」は、露出計も電池もなく、すべての操作を手でおこなう 35mm フィルムカメラの構想を、さわって試せるサイトにしたものです。フィルム 1 本で撮れるのは 36 枚で、撮ったものを確かめる画面もないので、1 枚ずつ決めてからシャッターを押す。サイトでは、机の上のカメラでシャッターを切ったり、フィルムを選んで 4 枚撮ったりできます。
暗い机にランプの明かりが落ちていて、静かなページです。接眼部をのぞくところから始まって、シャッターを切るとプリントになり、最後にまたファインダーをのぞく。たくさん動くのに、どの動きもカメラで撮るときの手順のどこかに当たっていて、落ち着いてみていられます。
接眼部をのぞくオープニング
最初の画面は、接眼部の画像を、縁、柱、上下の枠、奥の壁の 4 枚の層に分けて、カメラからの距離をずらして置いたものです。読み込みが終わると、カメラがこの層のあいだを前へ進むので、手前の縁と奥の壁のずれ方が変わり、筒の中を通り抜けていくように見える。
ファインダーの下の欄に出る % と 12 本の目盛りは、机の場面につかう画像を 1 枚読むごとに進み、f 2.0 と 1/60 のあいだに露出計の表示のように並べてあります。ピントもこの数に合わせて寄せていて、そこへ周期の違う正弦波を 2 つ足しているので、迷うように行き来しながらすこしずつ合っていく。揺れは読み込みが進むほど小さくなり、読み終わってからピントを合わせきる。ぼけは黄金角のらせんに並べた 24 点を拾うもので、点の間隔に合わせて解像度を落としたミップマップを読むので、点と点のあいだも埋まる。
接眼部の壁には、画像の明るさの差を坂の向きとみなした法線を立てて、向きの変わる光を当てています。平らなところに掛かる値はちょうど 1 なので、出っぱりの光に向いた側が明るく、反対の側が暗くなって、光が壁をなでていく。待っているだけなのに、ピントリングを回しているような気分になります。
机の上のカメラ
机の上のカメラは 3D で描いているのではなく、向きを 0.25 度ずつ変えて書き出した 73 枚の画像を、マウスの左右の位置に合わせて差し替えています。マウスで向けられるのは左右 6.5 度までで、そこへ減衰のあるばねで追わせている。画像は 9 度ぶんまで書き出してあるので、ばねでいきすぎたところにも絵がある。
描く順は、机の写真、枝の影、カメラの影、カメラの本体です。影はどちらも乗算で重ねていて、カメラの影は画面全体ぶんを 4 分の 1 の解像度で持ち、本体は写っている範囲だけを切り出してある。枝の影は写真ではなく、種を決めた乱数で枝を再帰的に伸ばして葉をつけ、ぼかしてから重ねたものです。枝ごとの揺れは、根元からの深さに合わせて位相を遅らせ、親の枝の曲がりに足していくので、先のほうほど大きく、遅れて揺れる。
宙に浮いたほこりは、机の写真を小さく縮めた明るさの表を引いて、明るいところにいる粒ほど強く加算で描き、暗いところでは描きません。ランプの明かりの中に、ほこりが浮かんで見える。画像を差し替えているとは思えないくらい、カメラも影も机の写真になじんでいて、ついマウスを左右に振ってしまいます。
シャッターを切ったあとのプリント
シャッターを切ると、その瞬間の画面を写しとって、トーンカーブや色かぶり、粒子を 1 画素ずつ計算して現像しています。暗いところは青へ、明るいところは暖かい色へ寄せ、粒子は中間の明るさでいちばん強くなるように掛ける。明るいところからは赤みのある光をにじませて、フィルムのハレーションも入れている。この計算は Web Worker でおこない、使えないときは帯に区切って、何フレームかに分けて進めます。粒子の乱数は、机のカメラを眺めているあいだに、ブラウザの手が空いた時間を見つけては作りためてある。
現像した画は、35mm のコマと同じ 3:2 へ切り詰めながら、紙の縁をつけてすこし傾け、プリントにする。プリントは WebGL の板で、頂点を円弧に巻きつけて反らせています。弧の長さが変わらないので、反ったぶんだけ紙が短くなる。反り具合はスクロールの速さで決まり、止めるとほぼ平らに戻る。下の端ほど強く反らせ、縦の軸のまわりのねじれも動いているあいだに進めているので、反り方が左右対称になりません。
写しとった画は、ランプの明かりがもう写った絵です。そこでライティングはやり直さず、正面を向いた平らな紙を 1 とした拡散光の比を掛けている。平らなときはもとの画面と同じ明るさなので、画面がプリントに変わるところで境目が出ない。写真の部分と縁も、同じ法線と同じ光で照らす、ひと続きの紙として扱っています。
つやは、シュリックの近似でフレネルを入れていて、正面を向いたところにはほとんど映らず、反ってランプのほうを向いた縁で強く光る。紙の目には見えないほど細かいノイズをつかって法線を揺らしていて、つやがそのぶん細かく散る。反って裏が見えるところは、写真ではなく紙の色で塗ってあります。印画紙を手に持って、光にかざして傾けているみたい。
EXPOSED の光
EXPOSED の文字のあとで画面を埋める光は、次の部屋の写真を露出オーバーにしたものです。スクロールに合わせて、いまの場面を黒く沈めてぼかしながら、画面の中央すこし上の 1 点からその写真を広げていく。広がる前線はノイズでぎざぎざにし、縁の明るい帯もしきい値でまだらにしてあるので、光が細かい粒になって散る。
写真ははじめ、露出を大きく上げてクリーム色に飛ばし、彩度もほとんど抜いてあります。そこから露出を下げ、彩度を戻していく。下げ方ははじめに速く、あとはゆっくりで、前線が届いたばかりのところほど明るい。光が引ききるとページが移り、次のページは最初の描画から、この光が行き着いたのと同じ写真を出している。
白いところから部屋がだんだん出てくるのが、現像液の中で印画紙に像が浮かんでくるときに似ていて、すごくきれいです。
SHOT のファインダー
SHOT のページは、画面の真ん中に丸い窓をひとつ固定して、その奥で映像のカードを縦に送っています。窓の中では、送っているあいだ 2 枚の映像をクロスフェードでつないでいて、カードの境目の線は出ない。どちらの映像もそれぞれのカードの枠に合わせて敷いてあるので、入れかわるときにどちらも位置が跳ばない。
送っているあいだは、縦にモーションブラーを掛けています。ぶれの長さはカードを送る速さから決め、拾う点の数もぶれの長さに合わせて増やし、重みをガウス分布にしている。ぶれの端に映像のコピーが並ばず、なめらかに流れる。平均をとると色が灰色に寄るぶん、速さに合わせて彩度を上げてあります。
丸い窓を 16:9 の映像に重ねると、見えるのは半分に届きません。右ボタンでドラッグするか、Shift と矢印キーで映像を横に送れて、縮めないまま左右に隠れていたところも見回せる。マウスを動かすと、その速さで接眼部の縁がばねのように揺れ、奥の映像は縁よりずっと小さくしか動かないので、ガラスの向こうにあるように見えます。
カードを送るたびに、フィルムを巻き上げて次のコマへ進めているようで、ほんとうにファインダーをのぞいている気分になる。見ているうちに、このカメラでじぶんも撮ってみたくなりました。